Q1 事件や事故の後始末に追われ、こころのケアどころではありません。
落ち着いてからではだめでしょうか?
A 事件や事故後の対応としては次の2つが必要です。
❶事件や事故の原因調査を基にして再発防止策を講ずること
❷事件や事故によって影響を受けたコミュニティ構成員の心理的ケア
どちらもできるだけ早く取り掛からねばならないでしょう。原因究明は早くはじめ、かつ時間をかけ
慎重に行うことが必要です。一方、こころのケアは時期を逸すると子どもや保護者など構成員の不安
が噂やデマを蔓延させ、二次被害を生む可能性が高くなります。両者を並行することで以上の危険性
を最小限にできると考えます。
しかしながら、以上述べたことは基本的には事件や事故が一過性のもので、コミュニティ構成員の
生活基盤が維持されている場合に限ります。大規模な自然災害で生活全般が破壊されたような場合
は、その回復が最優先です。「まず生きる」「(支援を受けながら)よりよく生きる」「自らの力で
よりよく生きる」の順を考える時、心理的支援は医療、保健、福祉などの広範な支援ネットワークの
中で種々の支援者と当事者との連携のもとに提供される必要があります。
Q2 事実を伝えると子どもはかえって不安になるのではないでしょうか?
A 学校が伝えなくても、すでにSNSやマスメディア、噂などで子どもたちの
多くは事件や事故の情報に曝されています。不正確な情報は疑心暗鬼を
呼び、二次被害を生じさせる原因ともなりかねません。また、学校が事件や
事故について話題にしないことは、事件や事故及びそれに伴う(前述の急性
ストレス)反応 についても「学校では話してはいけない」というメッセージ
を与えることにもなります。発達段階に合わせ簡潔に事実を伝えること、
これがこころのケアの第一歩です。
Q3 臨時保護者会を開くと、学校の責任追求などで大変な事態になりませんか?
A 事件や事故の性質上から学校の管理責任を免れ得ない場合もあります。そのような場合こそ、早期
に保護者、地域に向け《現段階で明らかになっている事実》と《学校の取り組み》について伝える
ことが重要です。その際、当面する最優先課題は子どもの安定を図ることであり、そのためには
日ごろ以上に保護者、地域と学校が密に連携することが必要と訴え、理解を求めなければと考え
ます。子どもの状態が家庭と学校では異なる場合も多く、家庭での子どもが示す不安反応に対する
具体的方法を保護者に丁寧に伝えるとともに、学校に連絡をお願いすることで、落ち着かれることも
あります。
Q4 保護者の意向で事故死と伝えましたが、自殺ではとの噂があるようです
どう対処すればよいでしょうか?
A ご遺族の意向で一旦事故死と報告したのであれば、それを貫かねばならないと考えます。「自殺
では?」というような子どもの質問には「なぜそう思った?」「誰から聞いた?」「そう聞いて
どのように感じた?」など丁寧に話を聴き、子どもの衝撃を十分受け止めた上で、「学校はご家族の
方から事故で亡くなったと聞いている」ことを毅然とした態度で(責めるのでなく)話し、無責任な
発言により亡くなった本人やご家族をさらに傷つけることのないようにと伝えます。また、子ども
たちに対応する前にこのような対処法について教職員全員が情報共有しておかねばなりません。
なお、ご遺族が自死であることを伏せてほしいという意向をお持ちの際の
報告の仕方としては、私たちは事故死や病死など実際とは異なった理由を
伝えるよりは、「ご家族から〇月〇日〇時に亡くなったとの報告があった」
と事実を伝える方が望ましいと考えています。
Q5 亡くなった子どもの机の位置や片付けはどうしたらいいでしょうか?
A 亡くなった子どもの机、作品、机に飾られた花などはすべて、これまで生活をともにしてきた級友
や担任に子どもの死を思い出させるきっかけとなります。また恐怖を呼び起こすこともある
でしょう。身近な人の死は、悲しみ、つらさ、恐怖、無念さなど死にまつわるさまざまな思いを
周囲の人たちと共有しながら、少しずつ乗り越えていくしかありません。緊急支援に赴いて、
子どもたちが「机、どうしたらいい?」と担任に尋ねる場面に遭いました。そのような場合には必ず
「どうしたらいいと思う?」と返してくださいとお願いしました。そうすると子どもたちは「運動場
で遊ぶのが好きだから運動場が見える所に置いてあげたい」のように自ら考え自らのこころの整理を
していきます。もちろん、ご家族へは子どもたちの思いを伝え、了承を得てください。
Q6 下校中に交通事故で子どもが亡くなりました。
学校として特別な対応をする必要があるでしょうか?
A 身近な人の突然の死は、子どもたちに予想を超える反応をもたらします。下校中や下校後の事故で
あっても子どもに「一緒に帰らなかったから」「前の日口喧嘩したから」のような(非合理ですが)
自責感を引き起こすことはけっして少なくないのです。また以前に身近な人を亡くした体験が
あったり、もともと何らかの問題を抱えていた子どもが事故をきっかけに不安定になることも
あります。学校として、事実を報告すること、事故後の子どもの反応を把握すること、必要な
対応を行うことにより保護者や地域との連携を深め、学校への信頼感を増すためにも重要なこと
と考えます。
Q7 「こころの健康調査票」を行う適切な時期はいつでしょうか?
あまり早すぎては反応がでなくて子どもの把握ができないと聞いたのですが?
A 私たちが考えるプログラムでは「こころの健康調査票」を各自がありのままの体験や感情を表現
する機会を保障するもの、と位置付けています。メンタルヘルスのスクリーニング用とは考えて
いません。従って、学校による事実報告に引き続いて、子どもたち一人ひとり各自のありのままの
体験や感情を表現してもらうために実施します。SNSが浸透した現在、多くの子どもたちは何らかの
方法で情報を得ていると想定できます。また事件や事故の発生時期によっては学校ではじめて事件や
事故を知る子どもたちもいるでしょう。そのようなショック状態ではまだ心身共に不調が実感されて
いないことも推測されます。そこで実施に当たっては、これからさまざまなこころや身体の反応が
生じるかもしれないこと、それらの反応は《異常な事態に対する正常な反応》であること、その
ような反応は自分の中に封じ込めずできるだけ表現したほうがよいこと、これからも気になること
があれば遠慮なく話してほしいこと、を伝えます。このようにして、今後
子どもたちが自分自身に起こる反応を予測し、それへの対処法を獲得する
上で重要と考えます。また「こころの健康調査票」には下に「今の気持ちを
書いてください」欄を作っています。私たちのこれまでの経験からは、
学校が「この子がこんな事まで深く考えていた…」「この子は(事件や事故
の当事者と)こんなつながりがあったのか」のように情報を得る記述も
あり、その後の対処法を考えるもとにもなりました。
Q8 緊急支援が必要となる事案に遭遇したことがありません。
どんな準備をすればよいでしょうか?
A 現在、各教育委員会や臨床心理士会などで緊急支援の研修会などが開かれています。突然の異常な
事態への反応や対処法をまずは知識として取り入れてください。こうして、ハザード(予期できない
危機)でなくリスク(予期でき、管理可能な危機)へと視点を変換します。また緊急支援では、
全ての事案ではありませんが、チームとして動きます。チームで動くことでさまざまな支援活動を
分担し、遺漏の無いようにすることが可能になります。さらにそのチームを後方支援するバック
アップ体制が必要です。たまたま緊急支援に繰り返し入らざるを得なかった教育委員会関係者や
臨床心理士でも、事件・事故直後の混乱した状況下では急性ストレス反応を起こしながら動きます。
そうするとしなければいけないことを忘れたり、心身共にハイテンションのまま過ごすことに
なります。ですから、後方支援者が必要となるのです。さらに日ごろから予防のありかたをも考えて
いただけるとよいでしょう。自殺予防教育の一環として、互いがこころのゲートキーパーになること
や対人スキルアップ・プログラム を教育カリキュラムに取り入れること、子どもたちと教職員や
保護者が互いに温かい関係を創る工夫をすることなどです。一朝一夕にはできませんが、緊急支援
事態が(少なくとも人災から)起きないような努力を重ねたいと思っています。
Q9 スクールカウンセラーがいるので、事件や事故後の心理的ケアはスクールカウンセラーに
任せると言われたのですが?
A 事件や事故の様相によってはスクールカウンセラーの通常勤務の範囲で、反応を示している
子どもたちの面談や教職員とのコンサルテーションで学校コミュニティ全体が落ち着いて、日常
生活に戻る事案もあります。しかし、学校コミュニティ全体が衝撃を受けるような事件や事故の
場合は、子どもたち全員、教職員、保護者それぞれを対象とする支援プログラムの実施が必要で
あること、スクールカウンセラーも学校コミュニティの構成員の一人であり衝撃を受けている
危険性があること、以上からスクールカウンセラーのみでは対応困難と推測できます。このような
点の理解を求め、緊急支援チームの派遣を要請してください。
Q10 スクールカウンセラーと緊急支援チーム内の臨床心理士との役割分担は
どうしたらいいでしょうか?
A 外部から緊急支援チームとして学校に赴いた臨床心理士の一人がコーディネーター(リーダー、
現場監督です)となり、学校管理職や教育委員会関係者などとともに校内緊急支援チームの中で
緊急支援プログラムの企画立案をし、全体のマネジメントを行います。緊急支援チームの他の
臨床心理士とスクールカウンセラーは、主として特別な配慮を要する子どもたちや教職員の面談を
担います。特にスクールカウンセラーはもともと何らかの問題を抱えていた子どもや継続的支援が
必要と考えられる子どもおよび教職員をピックアップして、この緊急支援の時期から関われるよう
面談に入るとその後の対処がスムーズになると考えられます。